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アイパートナー

愚直な社長の参謀

 

志誌ジャパニストに連載された「愚直経営のススメ」をご紹介いたします。

全8回ございます。ぜひ、ご覧ください。

 

愚直経営のススメ 第1回 第2回 第3回 第4回 第5回 第6回 第7回 第8回

第8回 いい人生の物語をつくる

仕事とは何か

 人生の多くの時間を費やす仕事が、給料を稼ぎ、生きていくための必要悪というのではあまりにも悲しいものがあります。
 ここで、仕事の意味を漢字から考えてみたいと思います。「仕」という文字は、「イ」と「士」が合体したもので、「イ」は人、「士」は武士の士でサムライ、つまり自立心と規律、信念など優れた人間性を持つ人ということです。そして「仕」は何かに仕える。自分の使命に対し忠誠心を持って取り組むということです。「事」とは行為、意識や動作が向かっている方向を指します。
 つまり「仕事」とは、自立心や信念など人間性に優れた人が互いに認め合いながら、目的や使命を持って何かを成し遂げていく過程を言うのでしょう。武士は人のため国のために自己犠牲を厭わない強い美意識を持った人たちでしたから、仕事も自己の利益最優先でなく、人助けや社会への貢献が第一義であるべきものです。
 また、中国古典『大学』の冒頭文には、「大学の道は、明徳を明らかにするに在り。民に親しむに在り。至善に止まるに在り」という一節があり、人の上に立つ人のあり方が述べられています。生涯学び成長し立派な生き方をするには、まず天から授けられた徳性(良心、思いやり、謙虚さなど)を身につけ、発揮する。そして、社員など周りの人と心を通わせ、良い人間関係を育む。そういう最高の状態を保つことで、道が開けいい人生につながる、と説いています。

 

豊かな働き方とは

 いい人生には、いい仕事、いい職場が欠かせません。仕事には苦しいことが多いけれども、そこには喜怒哀楽があり、楽しさが前に進むエネルギーを与えてくれます。私が研修(ワークショップ)でやっている演習テーマで「仕事の何が楽しいか?」というものがあります。チームになってブレーンストーミングを行うと、職種・職位・性別・年齢に関係なくほぼ同じ答えにたどり着きます。
 具体的には、○何かをやりきった達成感  ○ありがとうという感謝の言葉をもらう ○自分と部下・後輩の成長 ○事業の成長○評価され、認められる ○信頼され、任される ○自分のアイデアが採用される ○良い人間関係ができるなどです。意外にも給与やボーナスという答えは少数派です。
 内閣府が行っている二〇一五年の「国民生活に関する意識調査」では、物質的な豊かさを求めるが約三〇%、心の豊かさを求めるが約六〇%という結果が出ています。
 一般的に、豊かさや貧しさは、経済的あるいは物質的な観点で言うのでしょうが、物が溢れ、断捨離がもてはやされる今日、物質的な豊かさより、心や精神の豊かさを求める人が多くなっているというのが事実です。
 つまり、豊かな働き方とは、人の役に立つ喜び・没頭する喜び・やり遂げる喜び・成長する喜び・自立する喜び・自由に創造する喜び・自己表現する喜び・認められ信頼される喜び・人や社会とつながるなど、心が満たされる働き方なのです。

 

経営の本質

 豊かな働き方には、一人ひとりの主体性と努力が必要ですが、環境を提供する経営側も大きな役割があります。前述の仕事の喜びは、心の内から湧き出す動機付け要因であり、経営者が社員に求めるものでもあります。
 しかし、経営者がそれらを直接的に求めると、「やらされ感」という大きな壁にはじき返されてしまいます。そこで、いったん迂回して仕事の楽しさに意識を向けたマネジメントに切り替えることが肝要です。
「仕事は楽しいか?」という質問を投げかけると、人間の脳は目の前の仕事の中に喜びと意義を見出し、ポジティブな姿勢が自ずと生まれてきます。経営者が仕事の楽しさを感じられるようサポートをすることで、経営者と社員の利害が一致し、ベクトルが合ってきます。結果として、いい人材・いい職場、いい業績の会社ができ上がっていくことになるのです。
 今は創造的な知的思考が付加価値を生む時代ですから、これまでの目に見えるものを管理する手法は時代遅れになりました。性悪説的な目標管理によって社員に鞭を入れ、目先の成果に右往左往させ、疲労で意欲を削ぐのは愚の骨頂です。これからは自律性や主体性を尊重した「急がば回れ」の忍耐強いマネジメントが必要なのです。
 また、人はみな先祖から受け継いだDNAを持っています。加えて育った環境や体験によって育まれた個性があります。誰一人として同じ人はいません。その持ち味を伸ばし活用すれば、唯一無二の働きができ、仕事がますます楽しくなるでしょう。
 その積み重ねが、人それぞれの世界観や人生の物語を作っていくことになります。そのシナリオは決して他人の評価や世間体が決めるものではなく、本人が選択すべきものです。それが喜劇の場合もあれば、悲劇の場合もあるかもしれませんが、自分で決断した後悔のないものであるべきです。
 経営者であれ社員であれ、いい人生とは仕事を通じて人間性を磨き、周囲の人を幸せにして自分も幸せになることでしょう。そして、職場はいい人生の物語をつくる舞台といえるでしょう。ここに経営の本質があるのではないでしょうか。こんな理想や憧れを持って、人生をかけて最高の作品を作ろうとする経営者に魅力を感じずにはいられません。

 

愚直・再考

「愚直」とは、正直ばかりで臨機応変な行動が取れないということ。つまり、不器用で世渡り下手ということです。
 しかし、「愚直」は、損得を無視し、手間を惜しまず、見えないことも大切にする。明確な軸があってブレず、一貫性があって信頼性が高い。常識や周囲の意見に惑わされない。そして、成功するまであきらめない。こんな意味を帯びてきます。
 真の経営者は、社員を家族のように思い、できの悪い社員も見切ることなく大切に見守ります。人生の荒波を乗り越えてきた人だけが持つ、優しさ・自信・人生の年輪がにじみ出ています。辛酸体験に磨かれた志・謙虚さ・そして寛容さを得た人なのです。
 経営を突き詰めるとどこに至るか。その答えはやはり「人の幸せ」でしょう。社会を動かしているのは人。お客様第一でいうお客様は人。商品をつくるのも、サービスをするのも、そして問題を引き起こすのも人。経営を極めるには、人間を深く理解することが肝要でしょう。
 経営者は哲学者であり、同時に社員を指導し人間として成長させていく教育者でもあり、そして教養も身につけた人間的魅力に溢れた人です。そんな格好いい経営者といい会社がたくさん生まれ、そこで創られるいい人生の物語をサポートすることが私の使命と考えています。

 

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■愚直経営のススメ 全8タイトル
第1回 大智は愚の如し
第2回 人間の尊厳を守る
第3回 愚直経営者の人間的魅力
第4回 日本ブランドの経営
第5回 持ち味を研く
第6回 閾値超えの戦略
第7回 不のエネルギーを活かす
第8回 いい人生の物語をつくる
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