株式会社アイパートナーは、人材の育成と経営のしくみづくりを中心に、創業から上場企業まで1,000人以上の経営者の指導実績をもつコンサルティング会社です。

アイパートナー

愚直な社長の参謀

 

志誌ジャパニストに連載された「愚直経営のススメ」をご紹介いたします。

全8回ございます。ぜひ、ご覧ください。

 

愚直経営のススメ 第1回 第2回 第3回 第4回 第5回 第6回 第7回 第8回

第3回 愚直経営者の人間的魅力

我が師、愚直な経営者

「給料のいい有名会社に就職してやる!」
 学生時代に私はこんな思いで就職活動をしました。しかし、最終的に地元の地味な中堅企業に就職しました。そこはオーナー経営者の凄まじいパワーで成長し、上場したばかりの会社でした。直属の上司は経営者のご子息であったこともあり、経営者というものを当時から目の当たりにしてきました。その後、二十七歳でコンサルティングの世界に入ってからも、中小中堅オーナー系企業の経営者の方々と仕事をさせていただいてきました。
 大半の方が会社の借金を個人で保証し、万一の場合には一家離散のリスクを抱え込む覚悟の経営者でした。アルバイトの学生が警察に補導されたとき、自分が親代わりに身元引受人になった情の厚い経営者。「契約書はなくても一度約束したことは絶対に守る」と断言する信義を重んじる経営者もおられました。
 他にも損得を超えた判断基準を持つ立派な経営者に沢山出会いました。そこで数しれない試行錯誤から編み出された経営手法に加え、人としての生き方まで学ばせていただきました。まさに、愚直な経営者こそ私の人生の師なのです。

 

独立自尊の志

 愚直な経営者の多くは、自己資金で会社を設立し、オリジナルの技術や商品を開発するなど独自の経営を行っている人です。独立自尊で生きるエネルギーの核は反骨の精神であり、エリートではない雑草魂の生命力にあります。大きな看板に寄りかからず、自分の顔と力で勝負しようとするファイティング・スピリットでもあるといえるでしょう。
 言葉に表せない辛い体験を絶対に屈しない「志」に転換した人でもあります。志とは私欲ではなく公欲であり、「人として正しいかどうか」を判断基準としています。それによって後ろめたさがなくなり、迷わず前に進むパワーを手に入れているのです。
 幕末の勤王の志士たちが座右の銘としていた、「正心誠意、明鏡止水、敬天愛人」、このような言葉に表れるような価値観と誇りを、愚直な経営者は持っているように思うのです。
「大企業がくしゃみをすると中小企業が肺炎になる」と言われますが、大企業でも大きな世界的なうねりに巻き込まれ溺れてしまう時代です。大きなものに身を委ねて生きるか、自分の足で立って生きるか。そこに優劣はないでしょう。しかし、私は後者の生き方に魅力を感じるのです。

 

人が好き

 愚直な経営者は、欲のない聖人ではありません。ビジネスはお金を増やす活動ですから、お金に嫌悪感がある人には経営者は務まりません。立派な志や道徳心があっても、飯が食えなければ意味がありません。明治初期に日本の経済基盤をつくった渋沢栄一翁は、「道徳なき経済は経済にあらず、経済なき道徳は道徳にあらず」と言っています。経済とはいうまでもなくお金です。では道徳とは何か。それは、人として正しい道を歩むこと、人を幸せにすることです。
 経営者は人の個性を活かすのが仕事であり、人に強い関心がなければできることではありません。つまり人が好きな人なのです。中小企業は、そうそう優秀な人材は採用できませんし、だましだましでも使っていかなければならないのが現実でしょう。時間と労力、そしてお金をかけて採用し、手塩にかけて育てた人間が辞めていくことも少なくありません。こんな悲しいことはないはずです。それでも、経営者は社員を家族のように考え、その人と家族の人生を見守るのです。これは、本当に人が好きでなければできないことでしょう。

 

才覚と品格

「始末、才覚、算用」この商人三カ条は、江戸時代の近江商人の家訓です。始末とは、「もったいない」の精神であり浪費を避け倹約すること。算用とは、算盤を弾いて利益を計算すること。そして、才覚とは、企画力であり、素早く頭を働かせて工夫して人を喜ばせる能力のことです。
 しかし、始末に算用、これが行き過ぎると「せこい、しぶちん、金の亡者」のレッテルを貼られてしまいます。行き過ぎた才覚も、「抜け目がない狡猾な奴」という悪いイメージになってしまうことがあります。
 経営者の一挙手一頭足は周囲から常に観察され、心のあり方が問われます。「始末、才覚、算用」というビジネスに必要不可欠なセンスをマイナスにしないためには、品格が必要です。金儲けは上手だが、品がない。私はこんな経営者を数多く見てきました。礼儀が悪い人、上から目線の暴言を吐く人、成金趣味で金があれば何でもできると思っているなど傲慢な人たちです。そんな経営者を、人としてはまったく尊敬できません。
 愚直な経営者には、ビジネスマンとしてのしたかさと同時に人としての品性、つまり礼儀正しく謙虚な慎み深さがあります。これは心が成熟している証に他なりません。

 

複雑系の奥深さ

 経営者の仕事は、多岐にわたります。毎日仕事の現場を回り、異常がないかチェックする。社員の顔を見て健康状態を観察し、細かくケアする。社員からの相談事への対応に、顧客クレーム処理。お客への訪問に接待。資金繰りに銀行交渉。社員との面談と評価に給与決め。経営計画づくり、決算処理に税務対応など、数え切れないほどの仕事があります。そして、忙中有閑、深慮遠謀で将来に向けての投資、遠い未来のことまで考えて準備することも怠れません。
 経営者は多様な仕事をこなしながら、人間的な多様性が培われていきます。厳しいが心は優しい。頑固だが柔軟性がある。へそ曲がりだが本質を大事にする。規律を重んじるが常識は疑う。わがままだが気配りができる。慎重だが大胆。腹の中はわかりにくいが、腹黒くはない。精神性を大事にするが、お金の大切さも知っている。苦労があっても涼しい顔。現実主義者だが理想主義者。大勢に囲まれているが孤独な人……。このような複雑系の深さに人間的魅力が醸し出されるのです。

 愚直な経営者は、三百六十五日・二十四時間体制です。そうしないと生き残れないという緊迫感もありますが、理想の会社の姿を模索し、独自の企業文化をつくっていこうという「志」あるから頑張れるのでしょう。短期的な利益だけを求める近視眼的な経営者とは本質的に異なり、「人の成長と幸せが自分の幸せ」という価値観を持った人徳のある人ともいえます。自分の会社と人生に誇りを持った経営者に、人間的な魅力を強く感じずにはいられないのです。

 

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■愚直経営のススメ 全8タイトル
第1回 大智は愚の如し
第2回 人間の尊厳を守る
第3回 愚直経営者の人間的魅力
第4回 日本ブランドの経営
第5回 持ち味を研く
第6回 閾値超えの戦略
第7回 不のエネルギーを活かす
第8回 いい人生の物語をつくる
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