株式会社アイパートナーは、人材の育成と経営のしくみづくりを中心に、創業から上場企業まで1,000人以上の経営者の指導実績をもつコンサルティング会社です。

アイパートナー

愚直な社長の参謀

 

志誌ジャパニストに連載された「愚直経営のススメ」をご紹介いたします。

全8回ございます。ぜひ、ご覧ください。

 

愚直経営のススメ 第1回 第2回 第3回 第4回 第5回 第6回 第7回 第8回

第2回 人間の尊厳を守る

人として

 ここ数年話題になっている「ブラック企業」。ひとことで言えば、人よりも金を大事にしている会社だと言えるでしょう。
 企業の目的は利益の最大化。利益がなければ社員の生活は維持できないし、将来への投資もできません。しかし、行き過ぎた利益の追求は、偽装に粉飾、不正取引などを引き起こしていることも事実です。
 やはり「企業は人なり」と言われるが如く、人を大事にすることが経営の根幹です。企業活動で商品を企画し製造するのも、販売しサービスするのもすべて人。企業が求める利益の源泉はつまるところは人。では、人を大事にするとはどういうことでしょうか。雇用を守り処遇を良くすることで足りるのでしょうか。突き詰めると、「人間の尊厳を守る」ということに至るのではないでしょうか。人にとって真の幸せとは何か、働く喜びは何か、深く考えなければなりません。ここで拙著『愚直経営で勝つ!(PHP研究所)』に登場いただいた経営者の事例をご紹介しましょう。
 「社員もその家族も、きれいなお金で堂々と生活してほしい。子供はきれいなお金で、心の清い人間に育ててほしい。社員がコソコソと悪事をはたらく責任は、会社側にもある。誰も見ていない部屋に一万円札が落ちていたら、誰でも拾ってポケットに入れたくなるでしょう。それはやはり、落とすほうも悪いんです」
 「会社が『正しく』あるためには、経営者が『正しさ』を貫かなければならない。
 「正しいことだけしていれば、経営者として後ろ指をさされることもなく、隠しごともありませんので、どこへでも堂々と出て行けます。周囲から見て、こういう信念がある人は強く映ります。もしごまかしていることがあれば、突かれたら痛いですからね。もっとも私にはごまかせるだけの知恵がないのですが(笑)」
 こう語るのは、一九九〇年代前半のバブル崩壊で発生した多額の不良資産を粘り強く処理してきた不動産業の社長です。こういう感覚を持つことで、不動産という不透明感のある業界の取引に不正を見抜く直感が敏感に働き、リスクを予防できるようにもなるとも言います。
 「正しさの基準は何か」と尋ねると、「会社のことを長い目で考えたときに、良いことか悪いことかということです。目先の利益のために、嘘をついたり騙だましたりするなどは論外である」と。物事のタイミングを計りスピーディーに決断を下すために、判断基準にしてきたのはシンプルに「正しさだけ」と言います。「そうすれば意思決定が簡単にできて、あまり悩まなくてすみます。正しい経営は迷うこともないし、楽なんです」と。
 「正しい」ことを行うのは当たり前、誰も否定しないでしょう。しかし、私は職業柄、ビジネスの裏話をよく耳にします。偽装問題などでマスコミに登場するのは氷山の一角です。世間では立派な会社がその地位を利用して、業界ぐるみで不正を犯したり、弱者に高圧的な態度で迫ってくることは日常茶飯事です。不正行為も日常化すると自覚症状がなくなります。問題に直面すると小賢しいテクニックで切りぬけようと思うのも人の心理であり、正しくあるということは容易なことではありません。

 

自由の最大化

 「自由度の最大化・夢ただ今実験中」を会社のスローガンに掲げた会社があります。社員の創造性を最大限に引き出し、技術優位を築くことを経営戦略の基本としています。競争優位は高収益につながり、キャッシュフローが良くなり、人材や開発への投資を可能になる。中小企業でも大企業に引けを取らない社員の処遇レベルを実現しようというものです。組織の運営方針は、管理を最小化し出る杭を伸ばす。自由と組織の秩序をいかに両立するか。大きなチャレンジといえるでしょう。
 この経営者はこう言います。
 「『自由の最大化』を唱えていますが、これは私の個人的な希望です。働いている社員にはもちろん個人の自由がありますから、社員が自発的に『こうしよう、ああしよう』と言ってくれるのを、心のなかで待っているというところがあるのです」と。自由な社風をつくるため、人の管理は最小にする。これは言い換えれば、社員一人ひとりに自由が委ねられ、「自立」が求められているということでもあります。各自が分別を持ち、指示を待たずに最適な行動ができる「自発性」がないといけません。一方、経営者にとっては、「自分の思うとおりにならない」という葛藤も生まれるはずです。
 「それは難しい点で、ある程度は諦めなければいけないでしょう。でも、ただ諦めるのでは芸がありません。社員の成長につながることであれば、私は目をつぶります」
 たとえば、ある社員が会社に五〇〇万円の損失をもたらしても、その社員が将来五〇〇〇万円の成果をもたらす可能性があれば、許して「諦める」と。
 「社長の仕事は、社員の裁量権を最大化し、創造性とやりがいを感じられる環境をつくること」と言います。
 会社の長期の利益や発展を考えれば、自由と創造性を重んじ、挑戦と失敗への寛容さが大事で、目先の多少の損はある程度見逃すべきでしょう。しかし、経営の世界は管理がてんこ盛り。自由と管理の綱引きは、管理が優勢のようです。

 

人間の尊厳とは

 人の尊厳とは何かを整理してみると、「正しく邪でない」「誠実で嘘がない」「自由意志を尊重する」「創造性に喜びを見いだす」「命と健康を大切にする」「愛情と真心で対応する」「弱者を守る」「謙虚で人を敬う」「人の持ち味を活かす」「好きな仕事に寝食忘れて没頭する」そして「自分の仕事に誇りを持つ」などではないでしょうか。
 働くとは、給与をもらうことだけが目的ではなく、仕事を通じて、「人間的に成長する」「価値観の合う仲間と愉快な時間を過ごす」、そして「人の役に立ち『ありがとう』という言葉をもらって幸福感を感じる」ということではないでしょうか。つまり、経営の要諦は、「人として」を軸に据え、考え行動することではないでしょうか。
 目先の利益より人間の尊厳を大切にすることは、まさに愚直と言えるでしょう。それは周囲の雑音に惑わされない明確でブレない軸があるということであり、自己信頼感の表れと言えます。拙著に登場する愚直な経営者は、社長在位年数平均二七年の典型的なマラソン型社長です。長く経営をしていれば何度も試練にあい、志や信念が研ぎ澄まされ、辿り着いたのが「人として」ということです。自分の志を大切にし、社員とその家族を自分の家族同様に守ることで、強さと優しさを兼ね備えた人間になってきた人たちです。社員を家族と見るか、経営資源の一つとして見るか、ここが経営の大きな分岐点ではないでしょうか。

 

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■愚直経営のススメ 全8タイトル
第1回 大智は愚の如し
 
第2回 人間の尊厳を守る 
第3回 愚直経営者の人間的魅力 
第4回 日本ブランドの経営 
第5回 持ち味を研く
 
第6回 閾値超えの戦略
 
第7回 不のエネルギーを活かす
 
第8回 いい人生の物語をつくる

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